真空ポンプとは、真空状態をつくりだせるポンプのこと。容器内を大気圧以下の真空状態にし、その状態をキープするために容器内の気体を外へ排出します。さまざまな部品や製品の製造段階において真空状態の環境で作業を行う必要があるとき、真空ポンプは欠かせない存在です。
ドライ真空ポンプは真空ポンプの種類のひとつであり、「油を使用せずにクリーンな環境をつくりだせる真空ポンプ」として高い需要を得ています。
ドライ真空ポンプにはスクロール型やルーツ型、ダイアフラム型、回転翼型(ベーン型)などがあり、封止に油や液体を使わず、非接触でクリーンな真空状態をつくりだせます。
また、水や油の交換が不要なため、定期的なメンテナンスが不要な点もメリット。そのため半導体産業や研究分野、食品業界などで幅広く活用されており、高い利便性から今後ますますの需要が見込まれています。
ドライ真空ポンプには、1段式と2段式があります。
1段式と2段式の大きな違いは、ポンプ室のつなぎ方。1段式では、ポンプ室を並列につないでおり、2つのポンプ室を並列につなぐことで排気量を増やしています。到達圧力が高く、排気速度が大きいのが1段式の特徴です。
一方、2段式はポンプ室を直列に2組つないでいます。直列につなぐことで圧縮比を大きくとり、低圧力を得られるようにしており、2段式は到達圧力が低く、排気速度が小さいのが特徴です。3段式や4段式などもあります。
到達真空度とは、「絶対真空にどれだけ近づけるか」を示す性能指標です。ミクロンやパスカル(Pa)で表し、数値が低いほど絶対真空に近く性能の高いポンプだということになります。
なお、絶対真空とは完全かつ理想的な真空状態のことをさしますが、あくまでも概念上であり実現はできていません。また真空は低真空~極高真空まで分類されており、真空成型などには低真空、真空乾燥には中真空、真空蒸着には高真空というように目的とする用途に応じて適した真空度が異なります。
排気速度とは「どれだけ速く真空状態にできるか」というものであり、数値が大きいほど真空に到達するまでのスピードが速くなります。単位はL/minで表され、排気系の特定箇所を流れる気体の流量を圧力で割ることで求められます。
ドライ真空ポンプの性能を決めるのは「到達真空度」と「排気速度」。つまり「どれだけ完全な真空状態に近づけるか」と「どれだけ速く目標とする真空状態に到達できるか」が真空ポンプの性能を判断するポイントです。
真空ポンプには「気体輸送式真空ポンプ」と「気体溜め込み式真空ポンプ」があり、作動原理によって大別できます。気体輸送式真空ポンプや気体溜め込み式真空ポンプをはじめとした真空ポンプの種類について説明します。
気体輸送式真空ポンプは2つのポンプによって高真空領域をつくりだします。1つ目のポンプには高真空まで排気できる高真空ポンプを、2つ目のポンプには高真空ポンプの排気側から気体を大気圧に排気する低真空ポンプや粗引きポンプを用意します。
気体輸送式真空ポンプには容積移送式真空ポンプと運動量輸送式真空ポンプがあり、それぞれ以下の種類に分けられます。
気体溜め込み式真空ポンプは吸気側から入ってくる気体を装置内に溜め込み、物理や化学の働きで気体分子を吸着します。また、電子やプラスイオンなどの働きで気体をイオン化させるものや、気体分子を極低温面に凝縮させるタイプもあります。
ドライ真空ポンプには、オプション機器を取り付けることも可能です。ドライ真空ポンプに取り付けられるオプション機器には、サイレンサーやパージバルブ、吸込真空フィルタなどがあり、標準仕様のままでも動作に問題ありませんが、より限定した条件下でドライ真空ポンプを使用するのであれば、オプション機器の活用をおすすめします。
オプション機器を取り付けることによって、排気音対策や異物の混入防止、高純度ガスの純度保持などの機能を付加することが可能です。
ドライポンプは油・液体などを使用しない非接触型の真空ポンプのことです。
電子顕微鏡などクリーンな環境が必要となる分野に活用されています。一方ロータリーポンプとは「油回転真空ポンプ」とも呼ばれ、機械的ポンプの一つです。リーズナブルな価格で購入でき、簡単に10pa以下の真空状態となる、コンパクトなどのメリットがあり、非常に使い勝手がいいという特徴があります。
ただし使い続けることでオイルが変色・減少するため、定期的に交換しなければなりません。
油を使用しない真空ポンプには、ドライポンプのほかにイオンポンプとクライオポンプがあります。
どのポンプも油に汚染されていないクリーンな真空を得られるのがメリットですが、真空を得る仕組みやメリット・デメリットが異なります。
オイルフリーの真空ポンプを導入する際は、ポンプによる違いを把握して検討することが大切です。ドライポンプ・イオンポンプ・クライオポンプの特徴やメリット・デメリットの違いについて、解説します。
油不使用のドライ真空ポンプは、半導体、食品、医薬品などクリーンな環境が必要とされる分野に有効です。その用途は実に多岐にわたり、さまざまな工程に活用されています。
重量物や完成品などの吸着固定・搬送、プラスチック製品の成形、食品包装、魔法瓶などの断熱、ビタミン剤やワクチンなどの乾燥、不純物除去、薄膜形成、燃料タンクなどの漏れ検査、電子顕微鏡による研究。以上ドライ真空ポンプ9つの用途について解説します。
多岐にわたる産業用途で真空技術が駆使されている現代、適切なドライ真空ポンプの選定は極めて重要です。ドライ真空ポンプの各種類の特徴から到達圧力、排気速度、騒音値に至るまで、選び方の基準を解説しています。
ドライ真空ポンプを長く安全に使用するためには、点検やメンテナンスが大切です。ただしドライ真空ポンプにはさまざまな種類や製品があり、それぞれ点検内容やメンテナンス方法が異なります。そのため、導入した製品のメンテナンスについては取り扱い指示をしっかりとチェックしましょう。
また、故障や重大事故を防ぐために、使用中に動作不良や異常を感じた場合はすぐに使用を中止し、修理やオーバーホールを行うことをおすすめします。
ドライ真空ポンプは長期連続運転による経年劣化のほか、凝縮性ガスや腐食性ガスなどによって破損や故障が生じることがあります。
たとえば「ポンプから異常音が発生し、ブレードが破損してしまった」「ポンプが変色し、ロックしてしまった」「コントローラの作動不良が起きた」などのトラブル事例があります。
ただし、ポンプの不具合は予兆があることがほとんど。そのためポンプの状態を監視し、トラブル発生を回避することが大切です。
ドライ真空ポンプの故障や不具合を防ぐためには、耐食性の確保も必要です。耐食性の低いポンプでは扱う流体によっては腐食してしまい、ポンプが溶けたり亀裂を生じてしまうことも。
そのため、扱う流体に応じた耐食性をもつポンプを選びましょう。たとえばOリングの材質の種類によっても耐食性を発揮できる対象は異なるため、事前に確認しておきましょう。
ドライ真空ポンプには小型から大型までさまざまなサイズがあります。大きさは主に排気速度によって決まり、大型サイズのポンプほど排気速度が大きいと考えられます。
なお、必要な排気速度は計算によって求められます。ポンプ選定時には用途に応じた排気速度を確保できるか確認しましょう。設置スペースを十分にとれる場合は大型サイズの導入がおすすめです。
近年では半導体産業などでドライ真空ポンプの需要が高まっています。半導体の製造では塵やゴミのないクリーンな真空環境が欠かせません。しかし従来の真空ポンプではオイルの使用が必要でした。
そこでオイルを使用せずに真空状態をつくりだすドライ真空ポンプが登場。「ドライ革命」と呼ばれるほど、ウェットからドライへの転換に需要があったのです。現在では半導体産業をはじめとしたさまざまな産業・用途でドライ真空ポンプが活用されています。
また、真空ポンプの主要な製造メーカーは日本や欧米が多く、国内のみならず海外にも多く輸出されています。ドライ真空ポンプにおいても世界規模で需要が高まっており、今後も成長が見込まれるでしょう。
ドライポンプのレンタルでは、ドライポンプを購入して導入するのでなく、あくまでも期間限定の一時的な利用を目的としてレンタルサービスを活用することを指します。
ドライポンプはレンタル可能な製品ですが、レンタルサービス会社ごとに取り扱っている製品や種類が異なっており、まずは自社のニーズを明確化して比較検討しなければなりません。なお長期利用は購入の方が割安となります。
半導体製造ではクリーンな環境が求められます。真空下では不純物が少ないため、薄膜形成や加工といった製造工程に適した環境をつくりだすことが可能。
また、真空下ではプラズマを発生できます。プラズマは半導体のエッチングやダイシング、クリーニングなどさまざまな工程で活用されています。
そのため、真空状態をつくりだせる真空ポンプは半導体製造において重要な存在といえます。さらに近年半導体の供給が追いついていないことから、真空ポンプの需要も高まっています。
自動車製造において欠かせない存在である真空ポンプ。自動車部品の多くは真空熱処理加工が施されており、真空状態をつくりだすために真空ポンプが必要なのです。
前工程でも車体や部品の真空洗浄に真空ポンプを用いるなど、自動車製造におけるさまざまな工程で真空ポンプが活躍しています。
真空ポンプは食品製造工程でも幅広い用途で使われており、真空調理や真空包装、真空パックや真空蒸留などが挙げられます。
たとえば製麺機で行う真空脱泡は真空ポンプの働きによるもの。また、食品を急速冷却するための装置にも真空ポンプが使われており、食品製造において真空ポンプは欠かせない存在となっています。用途に合ったものを選び、真空度やポンプの流量などを確認することが大切です。
真空ポンプには医薬産業用途向けの製品も開発されており、製薬産業でも欠かせない存在となっています。たとえば医薬品の製造工程で行う真空乾燥は、薬品の品質を確保するために重要な工程。その真空排気システムには真空ポンプが用いられています。
真空度や化学的適合性、耐薬品性などを確認し、用途や使用環境に合ったポンプを選びましょう。
医療現場では人工呼吸器や酸素濃縮器、高圧蒸気減菌装置、吸引装置などのほか、歯科医療や透析などさまざまな用途で真空ポンプが役立っています。
用途によって必要な真空度なども異なるため、真空ポンプ選びでは性能や仕様などをチェックしましょう。また、オイルを使わないことでよりクリーンな環境を実現できるドライ真空ポンプもおすすめです。
冶金産業では、高品質の金属を製造する方法として真空ポンプが活用されています。真空技術の活用によって不純物が放出され、大気中の冶金に比べて製品の品質や歩留まり率を高めることが可能です。
また、ジェットエンジン用合金や軸受け用合金などの高度の耐熱性や耐疲労性が要求される製品の製造においても、真空ポンプが活躍。そのほか、よりクリーンな環境やメンテナンスのしやすさが求められていることから、ドライ真空ポンプの導入も増えています。
分析・計測機器は、分析計内部をイオンが効率よく移動するために高真空が必要です。これまでは油回転真空ポンプが使用されてきましたが、排気性能の改善やクリーン化のニーズが高まっていることから、ドライ真空ポンプの活躍が見られるようになってきています。
また、ドライ真空ポンプなら油の補充や交換といった手間がかからないため、メンテナンスの低減および省エネルギー化の観点からもドライ真空ポンプが注目されています。
化学業界では、「真空蒸留・真空乾燥」「プラントでの可燃性流体および低温流体の移送」「溶剤回収」などの用途で真空ポンプが活用されています。たとえば真空蒸留は化学業界において重要なプロセスとなることから、真空ポンプはなくてはならない存在です。
真空ポンプとひとくちに言ってもさまざまな種類があるため、真空ポンプを導入するのであれば用途や要件などに応じて選ぶ必要があります。よりクリーンな環境を実現したいのであれば、封止に水や油を使用しないドライ真空ポンプがおすすめです。
物流業界では人手不足が深刻な課題となっている一方で、EC市場の拡大に伴って流通する物量は増加の一途をたどっています。物流業界に求められている効率化・省力化への貢献が期待されているのが、真空ポンプです。
物流業界では主にワークの搬送に真空技術が活用されています。真空ポンプの吸着性を利用することで、重量物をはじめとしたさまざまなワークを搬送することが可能。これまで人手で行われていた搬送を真空ポンプによって自動化またはサポートでき、効率化による生産性向上やコスト削減が期待されています。
自社に適したドライ真空ポンプを探す際、展示会の参加は有効な手段といえるでしょう。多様なブランド、製品が集結する展示会では、一度に多くの選択肢を比較することが可能です。製品の触感やサイズを実際に体感し、実用シーンを想定しながら選ぶことも大きなメリットでしょう。
さらにメーカーの専門家から直接製品情報やメンテナンス方法などを聞くこともできます。デモンストレーションを通して製品の性能や操作感を確認できることも、展示会に参加すべき理由の一つです。
ドライ真空ポンプにインバーターを搭載するメリットとして、効率向上、騒音低減、耐久性向上などがあります。インバーターはモーターの回転速度を調整し、必要な真空度に合わせて最適な運転速度を維持できるため、エネルギーの無駄を削減し、省エネルギーな運転が可能です。インバーター搭載のドライ真空ポンプを提供している企業の一例として「アンレット」の製品が挙げられます。アンレットのドライ真空ポンプは各種製造プロセスに活用可能で、消費電力を抑えたスタンバイ運転ができるなど、多くの特徴があります。
ドライ真空ポンプのガスバラストバルブとは、凝縮性ガスを空気の中にそのままの形で排出できるようにするための装備です。通常であれば、凝縮性ガスは一旦液体化され、ポンプの中に戻されて循環します。しかし液体化された凝縮性ガスが循環すると、油の潤滑性が低下してシャフトシールが劣化しがちです。
そのためガスバラストバルブが搭載されたドライ真空ポンプであれば、シャフトシールの劣化を防げるとともに、よりクリーンな環境を目指すことにも役立ちます。実際にガスバラストバルブを搭載した製品例もご紹介しますので、真空ポンプ導入の際の参考にしてください。
ドライ真空ポンプは半導体工場など、クリーンな環境を求められる場において使用されることが多いものです。しかしよりクリーンな環境を目指すには、省エネ性能の高い製品を導入することが適していると考えられます。
24時間365日体制で稼働することが多いドライ真空ポンプにおいては、以前から省エネ性能が求められてきました。昨今ではインバーターが搭載されていたり、ローターへの負荷を軽減したり、圧縮動力を分散させたりすることにより、さらに高い省エネ性能を目指す製品も現れています。この記事ではドライ真空ポンプの省エネ事情と、具体的な省エネ効果の高い製品をご紹介しますのでぜひ参考にしてください。
ドライ真空ポンプの中には、省スペース性にこだわった製品も見られます。コンパクトな本体は限られた設置面積であっても設置がしやすく、両サイドを壁付けできるなど設置場所を問いません。また省エネ性能が高くコスト削減に役立つこと、移設が簡単であることもメリットのひとつです。
この記事ではドライ真空ポンプで省スペース性が求められる理由について解説します。また実際に省スペース性が特徴となっている製品例も4つご紹介しますので、ドライ真空ポンプ選びの参考にしてください。
ドライ真空ポンプの中には、サーマルプロテクタと呼ばれる機能が搭載されていることがあります。サーマルプロテクタとはドライ真空ポンプの過熱を防ぐためのもの。モーター巻線が一定の温度以上になると強制的に切断し、本体の温度を危険ではない状態に保ちます。あまりに温度が高くなりすぎると、発火の危険性もあるため重要な機能です。
各社からもサーマルプロテクタが搭載されたドライ真空ポンプが提供されており、その他の付加機能も考慮しながら製品選びができるでしょう。
ドライ真空ポンプはさまざまな分野において活用されていますが、その中のひとつとして、太陽電池製造があります。太陽電池製造においては負荷の高いプロセスへの対応や、パウダー分・ミスト分の排気効率性向上、クリーンな環境での製造において必要です。
実際に太陽電池製造に適するドライ真空ポンプも各メーカーから提供されています。太陽電池製造の工程をより良くしたいと考えられるなら、ドライ真空ポンプの導入を検討してはいかがでしょうか。
薄膜コーティングのように、不純物を混入させずに薄膜を形成する加工では、ドライ真空ポンプが用いられています。ガラスや金属といった対象に均一かつ精密にコーティングを行えるため、耐摩耗性や反射防止といった薄膜の機能を正しく付加できます。
製品の実例として、スパッタリング処理に適したモデルや排気速度を向上させたモデルが販売されています。環境に配慮した製品も数多く揃っていますので、ぜひ製品選びの参考にしてください。
水素排気に対応できるドライ真空ポンプには、さまざまな特徴があります。耐腐食性材料をオプションで付けられたり、低ノイズ・低振動を実現した機能がついていたりします。種類もオプションもさまざまですが、中には水素排気対応とはいえ、水素排気にするためにも製造会社に直接電話などをして問い合わせなければならない製品もあるので注意が必要です。用途は幅広いですが、主に大学や研究所などで使われることの多い機器です。
減圧に対応したドライ真空ポンプは、減圧を必要とする際に必須です。濃縮装置や凍結乾燥機などに適しています。減圧に対応するドライポンプを選定する場合、到達圧力や排気時間、吸引する気体の種類などに応じて適した製品を見つけることが大切です。小型で使い勝手がよく、持ち運びしやすい製品も多く揃っています。目的に合った製品を選びましょう。
防爆仕様のドライ真空ポンプは、化学薬品工場・石油工場・食品工場など、爆発の危険性がある場所で使用されているドライ真空ポンプです。爆発のリスクが高い場所で使用するために設計されており、万が一爆発が発生しても外部に爆風が漏れず、工場全体を守る役割があります。腐食性のあるガスなどにも負けない強さを備えている点も特徴です。防爆仕様の性能をチェックしたうえで、用途に合わせた製品を選定しましょう。
ドライ真空ポンプのオーバーホールでは、内部構造の分解を行い、各パーツに不具合が発生していないか、摩耗がひどくなっていないかのチェックをします。交換が必要なパーツは適したものに交換し、各パーツの洗浄や再塗装を行ってから、再度組み立てます。オーバーホールは内部パーツが原因の深刻な故障を事前に防ぐことを目的にしており、ドライ真空ポンプを長く使用するためにも、定期的なメンテナンスとあわせて必要な作業とされています。