真空ポンプとは、容器内で真空状態を作りだすために、容器内の気体を吸い込んで排出するポンプのこと。
たとえば半導体などの製造工程ではクリーンな環境で作業を行う必要があります。しかし大気中には無数の気体分子が存在しており、製造の障害となってしまいます。そこで真空ポンプを使って真空状態を作りだし、気体分子を大幅に減らして作業を行います。
また、物流倉庫などでの吸着輸送、真空包装、電子顕微鏡を使った研究などさまざまなシーンで求められる真空状態。そのため真空ポンプは半導体産業や自動車産業、医療、食品、印刷、宇宙開発、物流など幅広い分野で活用されています。
真空ポンプの動作原理では、「気体輸送式」と「気体溜め込み式」に分類されます。
真空ポンプの吸気側から排気側へと気体を輸送するのが「気体輸送式真空ポンプ」。気体輸送式ではさらに「容積移送式」と「運動量輸送式」に分類できます。
容積移送式真空ポンプでは回転運動を行う油回転真空ポンプやドライ真空ポンプのほか、往復運動を行うダイアフラム型真空ポンプなどがあります。とくにルーツポンプやベーンポンプなどの回転運動を行うポンプは駆動が容易で脈動が少ないのがメリット。大気圧~中真空までの領域で用いられています。
運動量輸送式真空ポンプは気体及び分子に運動量を与えることで気体を輸送しており、連続排気が可能な点がメリット。流動作動式である油拡散ポンプやエジェクタ、機械式であるターボ分子ポンプなどが挙げられます。
気体輸送式が吸気側から排気側へと気体を輸送するのに対し、気体溜め込み式では吸気側から入る気体を溜め込んで排気します。ポンプ内に気体分子を吸着・凝縮することで気体を溜め込み、比較的高い真空状態をつくりだします。
例としてイオンポンプではチタンのゲッター作用によって気体を排出しており、超高真空を達成可能。また、気体分子を極低温面で凝縮・吸着を行って排気するクライオポンプもあります。2段式の構造になっており、2段階で冷却することですべての気体を排出し、超高真空を達成できます。
ただし、気体溜め込み式真空ポンプは定期的に気体を放出して再生する必要があるというデメリットももっています。
一般的に「ポンプ」というと、液体に位置・速度・圧力のエネルギーを加え、低い場所から高い場所へと輸送する機械のこと。一方、真空ポンプで扱うのは気体であり、容器内を大気圧以下の真空状態にするために用いられます。
完全な真空状態を絶対真空と呼びますが、真空到達度とは絶対真空にどれだけ近づけたかを数値で表したものです。単位はミクロンで表され、数値が小さいほど絶対真空に近く、真空ポンプとしての能力が高いと考えられるでしょう。
なお、一般的な真空ポンプでは375ミクロン以下。また、ミクロンではなくPa(パスカル)で表示されている場合もあります。一般的な真空ポンプでは50Pa以下となっており、数値が小さいほど真空到達度が高いといえます。
真空到達度では真空ポンプの能力を判断できるため、ポンプ選びの基準のひとつとして覚えておきましょう。
そもそも真空とは、通常の大気圧よりも低圧の気体で満たされた状態のこと。
大気圧を10⁵Paとして、これより低い圧力であれば真空だといえます。なお、完全な真空状態である絶対真空は物質や圧力が全くないため0と考えます。
また、真空は圧力の範囲に応じて5段階に分類されています。
真空ポンプにはさまざまな種類があります。ここでは、真空ポンプのなかでも代表的なものを紹介します。
気体輸送式のなかの容積移送式・回転式に分類。円形ケーシングと羽根車で構成されており、ケーシング内に封水を入れて羽根車を回転させます。遠心力によって循環流れができ、吸引と排出を行う過程を繰り返すことで真空状態を作りだします。水蒸気や水滴を含む気体の排気におすすめです。
水封式ドライ真空ポンプは水蒸気や液体の吸引に強く、コンタミや固形物を含む気体の吸引も可能。また、動作温度も低いため、爆発性ガスの取り扱いにも向いているというメリットがあります。一方で、水の温度によって最高到達真空度が決まるため、運転中は水を常時排出し続けないといけません。
気体輸送式のなかの容積移送式・回転式に分類。回転翼形・揺動ピストン形・カム形などがあり、ケーシング内に油を封入し、気密性を高めることで高い真空度を得ています。簡単に真空状態を得られるメリットがありますが、真空ポンプオイルの取り扱いには手間がかかります。
油回転真空ポンプは安定した排気性能を有しており、10pa以下の真空を簡単に得られるというメリットがあります。また、真空ポンプのなかでも比較的リーズナブルな価格で導入でき、使い勝手も良いのが特徴。デメリットとしては、使用する油が変質・減少するため、定期的な交換が必要な点があげられます。
気体輸送式のなかの容積移送式・回転式に分類。封止に油や液体を使用せず、クリーンな排気を得られるのが特徴。ルーツ型やスクロール型、ベーン型、ダイアフラム型などがあります。クリーンな環境が必要な半導体や食品、医薬品などの分野を中心に近年注目されています。
油や液体を使用しないドライ真空ポンプは逆拡散の心配がないため、クリーンな真空を得られるのが一番のメリットです。また、油の交換・補充といったメンテナンスも必要ありません。一方で、油回転式のポンプと比べて費用が高くつくほか、種類によって作動音や発熱が気になる場合があります。
気体輸送式のなかの容積移送式・回転式に分類されます。ルーツ型真空ポンプの排出側に、粗引き用として油回転式ポンプや水封式真空ポンプを配置。排気速度を大幅にアップさせることができ、高い真空度を達成できます。
油回転真空ポンプやドライポンプなどの排気速度が落ちる圧力領域において、メカニカルブースタを補助ポンプとして使用することで排気速度を飛躍的に増大させることが可能。短所としては、メカニカルブースタ単体では大気圧から作動できない点があげられます。
気体輸送式のなかの運動量輸送式・機械式に分類。中高真空領域において分子に運動量を与えることで排気させます。分子流領域でも安定した排気が可能ですが、ロータが高速回転するため負荷がかかりやすく、安全性にも注意が必要です。
ターボ分子は分子流領域において排気速度が一定のため、連続したガス排気を可能としています。一方で、大気中だと動翼にかかる負担で壊れてしまうため、ある程度の真空をつくるためにドライポンプや油回転真空ポンプなどの補助ポンプが必要です。
排気速度が大きく、初期費用やランニングコストが安いうえ、メンテナンスも簡単。ただし油を使うため逆流の可能性があり、油で汚染されるリスクがあります。
油拡散ポンプのメリットは単純な構造でメンテナンスしやすく、大きな排気速度を得られることです。一方で、油に汚染された蒸気が高真空側に逆流する可能性があります。また、単独での使用ができないため、補助ポンプが必要です。
真空の質がきれいで開口径に対する排気速度が大きいというメリットがあります。立ち上がった後の補助排気は不要ですが、立ち上げ時間は他の真空ポンプに比べて長く、再生操作も必要です。
クライオポンプはすべての気体分子を排気でき、それにより超高真空を得られるのがメリットです。デメリットとしては、定期的に気体の放出・再生操作が必要な点があげられます。また、気体の種類によっては、ポンプ内で危険性物質・ガスが生成されることもあるので注意が必要です。
ノーブルポンプやスパッタイオンポンプとも呼ばれ、超・極高真空の発生に使用される真空ポンプです。機械可動部がないため、機械的振動や騒音を発生させずに高真空を達成することが可能。分析器や加速器、超・極高真空排気装置、電子線照射装置などに使用されています。
機械的振動や騒音を発生させないため、ほかの機器の動作に影響を与えません。また、電力だけで使用できるので、夜間の無人運転や遠隔操作に適しています。一方で、別のポンプで高真空状態をあらかじめ作ってからでないと使用できないのが難点。そのほかにも高電圧を使用したり、陰極の交換が必要だったりなどのデメリットがあります。
排気速度が大きく、初期費用やランニングコストが安いうえ、メンテナンスも簡単。ただし油を使うため逆流の可能性があり、油で汚染されるリスクがあります。
初期投資費用やメンテナンスコストが安く、大容量化も少容量かも比較的簡単。冷却水はポンプによって必要な場合もあります。油を使用するため油汚染のリスクあり。
油を使用しないためクリーンな排気を得られるのが特徴。初期投資やメンテナンスにかかる費用は高めですが、省エネ仕様で消費電力を抑えたタイプも登場しています。なお、少容量化は困難であるものの、ダイヤフラム型では小型タイプもあります。
起動時間が短く操作も簡単に行えるうえ、他のポンプと比べて消費電力が低いのが特徴。排気速度も安定しています。真空の質もきれいですが、到達圧力を確保したい場合はコールドトラップが必要です。
真空の質がきれいで開口径に対する排気速度が大きいというメリットがあります。立ち上がった後の補助排気は不要ですが、立ち上げ時間は他の真空ポンプに比べて長く、再生操作も必要です。
半導体製造では真空状態が必要なケースが多いため、真空ポンプが多く活用されています。
半導体製造に真空ポンプが必要な理由としては、不純物の少ない真空中で成膜やエッチングなどの加工を行うことで、質の高い処理が可能になるため。また、沸点の低い環境でウェハの処理を行うことができ、温度変化を抑えることでウェハが歪みにくくなるメリットもあります。
半導体製造で活用されているドライ真空ポンプは、スクロール型やダイアフロム型、ルーツ型などです。
自動車部品の製造工程では真空処理が行われる場面が多いため、真空ポンプは必要不可欠な存在です。
真空ポンプの活用例としては、部品の製造工程での真空熱処理加工や真空洗浄など。製造工程の初期段階で真空洗浄を行うことにより、表面処理部品の皮膜のはがれや精密部品の組み付け不良、製品の動作不良などの後工程でのトラブルと品質低下を防ぐことができます。
自動車製造に使用される真空ポンプは、ダイヤフラム型やピストン型などです。
冶金産業では、高品質の金属および合金製品を製造するうえで真空技術が重宝されています。
たとえば冶金のプロセスに真空技術を活用することで不純物が放出され、製品の品質や歩留まり率を高めることが可能。また、真空技術を活用すれば成分組成の調整を容易に行えることから、高度の耐熱性や耐疲労性を要求されるジェットエンジン用合金や軸受け用合金、高速度鋼などの製品の製造にも用いられています。
食品製造の工程では、約80年も前から真空機器が用いられています。真空機器が用いられる理由としては、常圧下では難しい品質保持や作業性の向上を実現するためです。
食品製造における真空ポンプの活用例には、砂糖や食塩、飲み物などの減圧濃縮をはじめ、野菜や果物、肉類などの真空乾燥、真空脱臭、真空輸送、真空巻き締めなどがあり。使用する用途に応じて適切な真空ポンプを選ぶ必要があります。
医薬品の製造プロセスに真空排気システムを用いた真空乾燥工程があり、真空排気システムに真空ポンプが使われています。
また、無菌医薬品の無菌充填においても真空環境で滅菌処理を行うプロセスがあり、製薬産業において真空ポンプはなくてはならない存在です。そのほかの真空ポンプの活用例としては薬品の真空凍結乾燥や真空搬送などがあり、用途に応じた製品が使用されています。
医療現場ではクリーンな環境が求められているため、油を使用しないドライ真空ポンプが活躍しています。医療現場での真空ポンプの活用例としては、救命措置に欠かせない人工呼吸器や酸素濃縮器、高圧蒸気滅菌装置、吸引装置など。
医療現場で使われている真空ポンプには、水封式真空ポンプやスクロール型真空ポンプ、ダイアフラム型ドライ真空ポンプなどがあります。用途に合った製品を選ぶのはもちろん、化学的適合性や耐薬品性のチェックも必要です。