ドライ真空ポンプとは、液体や油を使用せずに真空状態を獲得できる機械式の真空ポンプのことです。
電子・半導体産業を中心に活用されており、研究所や医療機関はもちろん、食品業界や宇宙開発などジャンルを問わず幅広く展開されています。なお、ドライポンプの技術は真空蒸留や殺菌・消毒、乾燥などにも役立っており、用途が幅広いのも特徴。
また、排気速度をアップさせるメカニカル・ブースターポンプと合わせることで、大気圧や到達気圧でも気体の圧縮・排出が可能です。ここでは、ドライ真空ポンプをタイプ別でわかりやすくまとめました。
ドライ真空ポンプのメリットとしてまずあげられるのが、油や液体を使用しない非接触型という点。水や油の逆流・拡散の心配がなく、クリーンな真空を得ることができます。また、水や油の補充・交換などの定期メンテナンスが不要になるのも、水や油を使用しないドライ真空ポンプならではのメリットです。
定期メンテナンスに時間が取られているという現場であれば、メンテナンスの頻度を低減できるドライ真空ポンプのメリットを感じやすいでしょう。
水や油の逆流・拡散による汚染の心配がないドライ真空ポンプは、よりクリーンな環境を必要とする半導体製造やFPD・LED・太陽電池製造工程において欠かせない存在です。そのほかの分野でもドライ真空ポンプのもつクリーンな真空とメンテナンスの利便性などのメリットが注目され、活躍の場が広がっています。
ドライ真空ポンプはクリーンな真空を得られる一方で、同じ容積移送式の油回転真空ポンプと比較して導入費や運転費が高くつくというデメリットがあります。また、ドライ真空ポンプの種類によっては、作動時の音が大きい・発熱が多いなどの欠点があり、使用する場所によっては適さないこともあるようです。
潤滑油を使用しないことで摩擦や空気の逆流が起こる可能性があるほか、カーボンを母体とした材質を使用したものだとシリンダに当たる際の動きによって摩擦粉が発生することも。ドライ真空ポンプを選ぶ際は、メリットだけでなく、種類ごとのデメリットについてもしっかりと注目することが大切です。
ドライ真空ポンプの発売当初は、複雑な構造や高い寸法精度が求められたことから、非常に高価な真空ポンプでした。現在は生産台数の増大に伴う量産効果などにより、利用しやすい真空ポンプになりつつあります。
ドライ真空ポンプを選定するうえでまず重要なのが、基本的な性能です。真空ポンプの性能は主に「到達圧力(真空度)」と「排気速度」に分かれ、必要に応じた性能を有しているのかをチェックしましょう。
たとえば高い真空度を必要とする場合は、真空度が優れているスクロール真空ポンプやマルチルーツ真空ポンプなどが適しています。高い真空度は必要ないのであれば、比較的安価なドライベーン真空ポンプやダイアフラム真空ポンプを検討すると良いでしょう。ただし、どちらもベーンやダイアフラムの定期交換が必要になります。また、使用するガスと真空ポンプとの化学的適合性について考えることも大切です。
そのほか、点検の頻度も重要な基準になります。なぜなら点検の頻度によって、点検・運用にかかる費用が変わってくるからです。必要な真空度を満たしていたとしても、予算以上のコストがかかっては適切なドライ真空ポンプとは言えません。また、コストだけに注目しても必要な性能が得られないため、ドライ真空ポンプの用途や予算を考慮したうえで、自社に合った製品を検討しましょう。
ただ、ドライ真空ポンプには多くの種類があるので、それぞれの特性を理解したうえで自社に合っているかを判断するのは、かなりの時間と手間がかかります。そのため、自社の用途に合わせて最適な製品を提案してくれるメーカーへの相談がおすすめです。
スクロール型ドライ真空ポンプは、内部構造が渦巻き型になっているタイプの機種です。ステータとローターが2枚組み合わさり、それぞれが互いに接触して外に空気を排出します。
ぴったりと密着しているのではなく、部分的に離れているため、パッとみると三日月型のような空洞を確認できるでしょう。真空乾燥装置や理化学分析機器など、幅広いシーンで使用されていて、真空度としては1Paに到達するような機種も展開。
各メーカーで、特性を活かしたスクロール型ドライ真空ポンプが開発されています。スクロール型ドライ真空ポンプの構造やメカニズムをはじめ、向いている使用環境など、よりわかりやすくまとめました。
ルーツ型のドライ真空ポンプは、多段メカニカルとブースターポンプを一体化させ、より大気圧まで圧縮できるタイプの機種です。
クリーンな真空状態をつくりだせるだけでなく、大気圧から到達圧力まで使用できるのがポイント。内部のローターが高速回転するため、気体を効率よく運べます。中のギアは互いに反対方向に動作するため、接触の心配もありません。
ルーツ型のドライ真空ポンプは、ギアやベアリング部分には油を使用していますが、ケーシング内に入り込まないように製造。各メーカーで、いかにオイルフリー環境を実現させるかにこだわっています。ルーツ型ドライ真空ポンプの構造やメカニズムをはじめ、向いている使用環境などを、よりわかりやすくまとめました。
ダイアフラム型ドライ真空ポンプは、ダイアフラム(圧力の作用に応じて変位する弾性の薄膜)を使用して作られている機種で、排気をシンプルかつ効率的に実践できます。
オイルフリータイプのダイアフラム型ドライ真空ポンプは、よりクリーンな真空状態を実現でき、使用環境下における空気汚染にも配慮。中の空気がまざらないよう、吸入と吐出エリアに弁を設置し、同じ方向へ空気輸送できるように開発されています。
小型タイプが多く、持ち運びの利便性やマルチに導入できる点にも注目。さまざまな業界で採用されています。ダイアフラム型ドライ真空ポンプの構造やメカニズムをはじめ、向いている使用環境など、よりわかりやすくまとめました。
揺動ピストン型ドライ真空ポンプではモータ直結の偏芯回転軸にピストンが連動しており、ピストンが揺動しながら往復運動をすることで気体を移送します。
構造はシンプルであり、メンテナンスは容易。ただし潤滑油などのオイルを使用しないためシリンダとしゅう動部から空気が逆流しやすいほか、到達圧力が低く高真空を得られないというデメリットがあります。なお、低真空領域であれば圧力は安定します。
揺動ピストン型ドライ真空ポンプは、プリント基板実装装置や真空包装機、印刷機や自動車排出分析機など幅広い用途があるのも特徴です。なお、機種によってはコンプレッサとしての加圧源にも役立ちます。
回転翼型ドライ真空ポンプとは、シリンダ・ロータ・ベーンに囲まれた空間において、ロータが回転することで吸入されたガスが圧縮・排出される機械式真空ポンプです。低真空領域で大きな排出速度を確保できるのが回転翼型ドライ真空ポンプの特徴。
多翼ベーンになっておりシリンダとロータからの空気の逆流を防ぐ構造につくられています。しかし、潤滑油などのオイルを使用しないため、摩擦や空気の逆流が起こる可能性は否めません。
ベーンにはカーボンを母体とした材質が使用されており、シリンダに当たる際の動きによって摩耗粉が発生するリスクが懸念されます。さらに作動時の音が大きい・発熱が多いことなどのデメリットもあり、場所によっては不向きなこともあるようです。
回転翼型ドライ真空ポンプの主な利用分野としては電子電機業界や食品機械業界、包装機械業界などが挙げられます。
クロー型ドライ真空ポンプは回転式に分類されるドライポンプです。圧縮チャンバー内には爪(クロー)状の2本のローターがあり、非接触のまま互いに逆回転します。回転によって圧縮ポケットが生じ、効率良く気体を圧縮・排気することが可能。消費電力を抑えられるため、省エネ性に優れているのが特徴です。
また、2本のクローローターは接触せず、潤滑油や作動流体も不要。そのためメンテナンス性にも優れています。
なお使用用途は幅広く、真空包装や吸引搬送装置、食品容器成形などに適しています。
2つのスクリュー部分が平行に設置され、ケーシングの内壁・ローターの相互間に小さな隙間をキープさせ回転させます。この隙間に形成されている空間が軸方向に連続で移送することで、吸気口によって空間に気体を吸入。排気側に送る過程で、圧縮しながら移送して排気する仕組みです。このスクリューローターはスパイラキシャル形・短形・リショルム形などの種類があります。
このスクリュー型ドライ真空ポンプの最大の特徴は、非常にシンプルな構造という点。シンプルだからこそメンテナンスがしやすくなり、メンテナンス費用も抑えられるでしょう。また故障などもしにくくなるため、ロングライフにもつながります。クリーンな空気が廃棄でき、取り扱いもしやすいので幅広い用途で使われているドライ真空ポンプです。
ターボ分子ポンプは、高速回転する動翼と固定された静翼で構成されている真空ポンプです。動翼は1秒間に数万回もの速度で高速回転しており、吸気口から入ってきた気体分子を弾き飛ばすことで排気する仕組みになっています。
大気中でターボ分子ポンプを運転した場合、動翼にかかる負担が大きく、壊れかねません。運転前にある程度真空にする必要があるため、ドライポンプや油回転真空ポンプなどの補助ポンプとセットで使用されます。