オイルを使っていないため、混入や漏れの不安がないドライ真空ポンプは、クリーンな環境を必要とする半導体、食品、医薬品、研究の分野などでも重宝されています。
このページでは、ドライ真空ポンプの代表的な用途について、解説していきます。
物流倉庫で重量物や、製造ラインで完成品、繊細なものを傷つけずに運ぶときなどにドライ真空ポンプが用いられています。対象物に吸着パッドを当て真空固定することで容易に搬送できます。
もしも、吸着・輸送にドライ真空ポンプではなく油回転式真空ポンプを使用した場合、運転時に排気口から油煙が発生するため、作業環境の汚染に注意が必要です。また、排出した油を充填するために、定期的に給油作業を行なわないといけません。油を使用しないドライ真空ポンプなら、運転中に油煙が発生することはなく、給油作業にかかっていた油代や保守点検の作業費・部品費の削減が可能です。
真空発生装置のエジェクタを使う場合は、大量の圧縮空気を消費するため、電気代が高くなってしまうのが難点。ドライ真空ポンプはエジェクタに比べて消費電力が低いので、エジェクタから切り替えることで電気代の削減を叶えられます。真空ポンプを選ぶ際は、導入後のランニングコストも踏まえて検討することが大切です。
シンプルかつ小型の「ダイアフラム型」・低振動・低運動で省エネ性が高い「スクロール型」・シンプルでメンテナンスがしやすい「揺動ピストン型」・低真空領域で大きな排出速度が得やすい「回転翼型(ベーン型)」・クリーンな廃棄が得られやすい「クロー型」が用いられることが多くあります。
さまざまな形をしたプラスチック製品などの成形にドライ真空ポンプが活用されています。型に原材料を吸着させるときに真空状態にすることで、ガスや水分といった不純物を除去し、成形品の焼け焦げ(ヤケ)、空洞(ボイド)を防ぎます。
加工・成型に油回転式真空ポンプを使用する場合、運転時の油煙による作業環境の汚染や油の消費といった課題があります。また、定期的な給油作業に人員をまわさなければならず、油代も年間で考えると決して安い金額ではありません。ドライ真空ポンプは油を使用しないので油煙の発生を心配する必要がなく、さらに給油作業から解放されるメリットもあります。
ただし、ドライ式の真空ポンプでも種類によって注意点があることは留意しておきましょう。たとえばドライ式のドライベーン真空ポンプやルーツ真空ポンプを使用する場合、運転音が大きいため、防音ボックスの設置が必要になることも。一方で、防音ボックスを使用するとポンプや周囲の温度上昇を招いてしまい、ポンプの故障や不具合につながる可能性があります。
冷却水なしに使用できる「ルーツ型」、上下運動で稼働する「ダイアフラム型」、2つのスクロールで稼働する「スクロール型」の3種類が一般的に用いられます。
スーパーやコンビニで売られている多くの包装食品には、ドライ真空ポンプが使われています。食べ物は空気に触れると酸化がはじまり、徐々に本来の味が損なわれ、腐ります。そこで脱泡、真空状態にして包装することで食品の賞味、消費期限を延ばすことが可能です。
食品の包装に真空ポンプを使おうと油回転式真空ポンプを選んだ場合、排気口から発生する油煙で食品に悪影響を及ぼしかねません。食品を守るための包装が意味をなさなくなってしまうため、クリーンな排気が可能なドライ真空ポンプが適しています。また、食品製造工程で油回転式真空ポンプを使用すると吸引した水分で油が乳化し、頻繁に油の交換を行なう必要があります。
油ではなく水を使用する水封式真空ポンプならどうかというと、もともと内部に水を含んでいるので、水滴や水蒸気を含む空気を吸引してもポンプの性能に影響しません。ただし、水温によって性能にばらつきが生まれるため、安定した真空度を得るのが難しいといった課題があります。
コンパクトで高真空・低振動・低騒音・省エネなどのメリットのある「スクロール型」、メカニカルとブースターポンプを組み合わせた「ルーツ型」、ダイアフラムの往復運動を活用し排気をする「ダイアフラム型」、低真空の領域で大きな排気速度を得ることが「回転翼型」、ピストンが揺れ動き真空状態となる「揺動ピストン型」、完全オイルフリーでクリーンな排気・省エネ・低メンテナンスな「クロー型」と言った幅広いドライ真空ポンプが活用されています。
実は魔法瓶や断熱タンブラの製造にもドライ真空ポンプが大いに役立てられています。製品は二重構造となっており、空洞かつ真空状態にする際に真空ポンプを使用。
熱は空気を介して高温から低温に逃げる性質があります。空洞を真空状態にすることで外気をシャットアウトし、保温が可能となるのです。
例えばお湯は100℃で沸騰しますが、真空状態にすることで沸点を低くできます。そのため熱に弱いビタミン剤やワクチンなどの乾燥工程にもドライ真空ポンプが用いられています。
真空環境を作成するうえで課題となるのが、どの真空ポンプを使用するかです。どのくらい減圧したいのか、真空環境を作成して何がしたいのかでも最適な真空ポンプが変わってくるため、真空ポンプのメーカーと相談しながら慎重に決める必要があるでしょう。
空間内に気体の量が多いと低真空、少ないと高真空と言われ、たとえば揺動ピストン型ドライ真空ポンプは到達圧力が低いため、高真空を求められる作業には適していません。求められる真空度によって適した真空ポンプを選ばないと空気が残ってしまい、製品の不具合につながる可能性があります。
さまざまな用途のなかでも、真空環境を作成するための真空ポンプ探しは非常に難しいので、自社製品の目的に合った機種を提案してくれるメーカー選びが重要です。真空環境を作成するための性能はもちろん、予算や大きさなどの要望も踏まえて提案してくれるメーカーを選ぶと良いでしょう。
コンパクトかつ低振動・低騒音・省エネなどの魅力がある「スクロール型」、排気速度アップが期待できる「ルーツ型」、手軽で利便性の高さが魅力の「ダイアフラム型」、ローターが回転し遠心力でベーンが外側にスライドする「回転翼型」、ピストンが揺れ動きながら往復運動をする「揺動ピストン型」、完全オイルフリー・クリーンな排気などのメリットを持つ「クロー型」と言った幅広いドライ真空ポンプが活用されています。
半導体製造の際、不純物がつくことで製品が動作不良を起こしたり完成を遅らせられることがあります。不純物混入が起こらないよう、製造工程では真空ポンプによって不純物が入らない環境を確保しています。
真空ポンプによる不純物除去の技術は、薄膜形成にも役立てられています。薄膜は物体の表面強化・保護・磁性化・光制御に有効です。作成する場合、真空下で材料を蒸発させ基板に吸着させる、イオンでコーティングするなどの製法をとります。
半導体の製造にはクリーンな環境が求められるため、水や油を使用する真空ポンプだと逆流によって作業環境に拡散するリスクがあります。さらに、水や油の補充・交換といった手間がかかり、その分の作業費や人件費も必要です。半導体不足により生産の制限や売上の減少といった課題を抱えているなか、真空ポンプのメンテナンスにお金をかける余裕がないという製造業の方も多いでしょう。
クリーンな環境の維持とコストの負担が少ない作業環境を叶えるためにも、真空ポンプ選びが重要です。ドライ真空ポンプは水や油を使用しないので逆流の心配がなく、さらに給油や水温管理などの手間もかからないので、半導体の製造工程に適しています。ドライ真空ポンプにもさまざまな種類があるため、自社の目的やニーズに合うものを検討しましょう。
液体を使わずに手軽かつ高い利便性をもった「ダイアフラム型」、画期的なドライ真空ポンプとも言われている「ルーツ型」、省エネ・低騒音・コンパクトなどのメリットのある「スクロール型」の3種類のドライ真空ポンプが活用されています。
燃料タンクや配管など漏れの有無を調べる検査にはさまざまな方法がありますが、ドライ真空ポンプで内部の空気を抜き調べる方法では漏れているかの確認だけでなく漏れ量の測定ができ、高精度な検査が可能です。
ドライ式のドライベーンを漏れ検査に使用する場合、真空度が低いため、高精度を求められる漏れ検査には向きません。また、運転時の音の大きさや高温になるといった課題もあり。作業環境の悪化を招くだけでなく、ベーンの定期的な交換が必要になるため、ランニングコストが高くなります。
漏れ検査にドライ真空ポンプを使用するなら、漏れ検査に適した真空度が確保されているかをチェックしましょう。製品によっては到達圧力1Pa以下に対応可能なものもあるので、選び方次第で高精度な漏れ検査を叶えられます。また、メンテナンスサイクルの長いドライ真空ポンプを選べば、ランニングコストを削減することも可能です。
接ガス部にオイルを使用せず、コンパクトで省エネが魅力の「スクロール型」のドライ真空ポンプがよく活用されています。
電子顕微鏡はそこから発する電子線で対象物を見るのですが、空気中ではガス分子が衝突して邪魔をするといわれています。対象物を正確に調べるため、ドライ真空ポンプで真空状態にする必要があります。
排気速度の高さが期待できる「ルーツ型」、低振動・省エネなどの魅力がある「スクロール型」の2種類のドライ真空ポンプが主に活用されています。
不純物が少ないクリーンな環境が求められる半導体製造では、薄膜形成や加工などの用途でドライ真空ポンプが用いられています。真空下では大気圧下よりも不純物となる気体分子が少ない状態ですから、半導体製造において真空をつくりだせる真空ポンプは大いに役立っているのです。
また、真空状態によって発生するプラズマも欠かせません。プラズマが発生すると電子やイオンを用いたさまざまな反応を起こすことができ、薄膜形成やエッチング、ダイシング、クリーニングなどを行えます。
真空ポンプのなかでも封止に油や水を使用しないドライ真空ポンプを半導体製造に活用すれば、クリーンな環境をより実現しやすくなります。近年半導体市場は拡大しており供給が追いついていないといわれていますから、半導体とともにドライ真空ポンプの需要も高まっているようです。
なお、半導体は微細化に伴いプロセス工程が増加傾向にあるようです。そのためドライ真空ポンプの省エネルギー化も要求されており、各メーカーではニーズを満たす製品の開発が進められています。
分析・計測機器には電気化学分析装置や光分析装置、電磁気分析装置などさまざまな種類があります。なかでも電磁気分析装置にあたる走査電子顕微鏡は光学顕微鏡よりも高い分解能をもっており、半導体デバイスや医学、生物学など幅広い分野で活用されています。
走査電子顕微鏡では電子源から発生した電子をガス分子と衝突させずに試料に到達させる必要があるため、真空状態が求められます。そのため、走査電子顕微鏡本体を真空ポンプで真空状態に保っています。
また、ガスクロマトグラフ質量分析計では、分析計内部のイオンが自由に移動させるために真空状態が必要となります。そのため真空ポンプを使用し、イオンが検出器に到達できる真空状態をつくりだしています。
なお、計測・分析装置ではこれまで油回転真空ポンプが用いられていましたが、分析精度の向上や分析機器周辺のクリーン化などによってドライ真空ポンプの需要が高まっているようです。
真空ポンプは医療機器の製造過程や医療機器などに用いられています。たとえば歯科医療で用いる唾液の吸引機や有機溶剤や腐食性ガスの吸引、ガス分析、ろ過、循環、コンプレッサーなどが用途として挙げられるでしょう。
ドライ真空ポンプは油や水を封止に使用しないことから、クリーンな環境づくりが可能。また、定期メンテナンスが不要であり、お手入れも簡単である点、低騒音・低振動を実現できる点もドライ真空ポンプのメリットです。さらに省エネルギー化を実現する技術開発も行われており、ドライ真空ポンプの需要は高まっています。
自動車産業では部品の吸着搬送や射出成型、ガス置換・回収、真空洗浄、真空熱処理炉、熱交換器のろう付け、真空引きなどさまざまな用途で真空ポンプが用いられています。
なかでも自動車用熱交換器のろう付けではドライ真空ポンプが活躍しており、油封式ポンプでは腐食リスクを抱えていたものの、ドライ真空ポンプでは腐食リスクを軽減しています。また、自動車の真空洗浄では超音波洗浄工程や真空乾燥工程においてドライ真空ポンプが用いられています。
金属冶金産業では熱処理やろう付け、溶接、コーティングなどの用途で真空ポンプが用いられています。金属冶金のプロセスでは大量の粉塵や破片を処理する必要があり、真空ポンプが役立っています。
ドライ真空ポンプは封止に水や油を使わず補充や交換といったメンテナンスが必要ないため、手間をかけずに運用できるメリットがあります。
ドライ真空ポンプは食品産業でも幅広く用いられています。たとえば真空吸着搬送や生鮮食品などの真空包装、製麺機などの真空脱泡、野菜や果物などの真空乾燥、真空冷却、真空蒸留や真空含浸による味付けなどが挙げられるでしょう。
ドライ真空ポンプはクリーンな排気を得られるため、高いクリーン度が求められる食品産業分野でも活躍しています。